あなたも現実主義

僕らが日々の生活をこんなに便利に快適に過ごしていられるのは、何千万という人々を火の中に投げ込み、鉛でずたずたに切り裂き、劇薬を浴びせかけて死に至らしめる戦争それだけのためにつくられた科学的成果のおかげだというのは、考えたくなくとも揺るぎのない事実。
ある反アメリカ・平和運動をやっている学生Aさんは、そもそもはアメリカが軍事通信目的で構築したインターネットを通じて仲間を呼び集め、ミサイル競争の中で進んだ宇宙開発によって生み出された人工衛星が送信するデータに基づき作られる天気予報でデモ当日はちゃんと晴れるらしいことを確認し、ちょっと買い物に車ででかけよう、やはりアメリカ軍の技術の民間開放によるGPSでスーパーまでの経路を探索する。


スーパーに着くと、今度はAさんによるアジア・アフリカ経済侵略が始まる。ふと手にした激安目玉商品の缶詰を作ったのは、アジアのどこかの環境劣悪な生産ラインで過重労働に苦しむ、何とか生活費を稼ごうとする主婦だった。今晩の夕食に豚肉を買ったことで、その豚肉の質量にして20倍の穀物が、飢えに苦しむ貧困民の口に入ることなく家畜肥料になることを支持している。店内のきれいな内装を演出するライトの電力の何割かは、国際石油資本がアフリカ沿岸の沖合で、煌々とありあまる富の炎を燃やし続けるプラントで吸い上げる石油エネルギーによって生み出され、一方でその炎を見つめる現地住民は流れ着く原油で魚介類が全滅したために恐ろしい生活難に陥る。


ここで浮かんでくるのは、僕らが日本に「いる」それだけで何気なく享ける恩恵が、ほとんど上にあるような他者の苦しみに基づくものだとしたら、何の理想も語れないんじゃないか?という疑問。何が反戦だ、脱貧困だ、日本人の道徳・美徳だ、スローライフだ、ロハスだ。結局あるのは現状追認のみ。コイズミも、ネットウヨクも、共産党員もぜーんぶ一緒の現実主義。さようなら。