また夏が来る

一部の人には話したことがあるけど、小学校のときヤクザの子と結構2人で遊んでいました。
その子は2コ下で、小学校になっても「さしすせそ」が言えず「たちつてと」になる、従って「おとうたん」「おかあたん」と言うのです。僕はよくからかって、ちゃんと言え、というと、彼は「おとうつぁん」「おかあつぁん」と一生懸命になるのです。
で、「おかあたんは元ボウトウゾクで、おとうたんは家に放火して刑務所に行った」と得意げに言うのです。
あるとき彼の家に入ったとき、押入れに義足があり、また記念写真に有名な暴力団支部の名前があったので、やはりほんとだったようです。
毎日のように家の外から「あ〜そ〜ぼ〜」と呼んできて、どこかへ一緒にでかける。たいてい子ども向けのゲーセンに行って、金のない僕に彼は気前よくメダルをくれるのです。
小学5年のときだったか、僕は夏休み、家の近くの人通りの多い小路の塀に登って、ずうっと川向こうまで続く線路の写生画を描くことにしました。毎日毎日、絵の具と水槽をもって塀にまたがって絵を描く。そんなときも彼は遊ぼう遊ぼうとくるのですが、絵を描きたい僕は邪険にしてしまって、やがてあきらめて帰る彼には悪いことをしたなぁ、でもしょうがないなぁと思ったりしたのです。
中学に入ってから彼は引っ越してしまいまったくコンタクトを取らなくなりました。
こんなことをここでブツブツ書いていること自体彼に悪いと思うのですが、彼はどうしているだろうと今でもときどき考えるのです。